扇田夏美『負け犬エンジニアのつぶやき:女性SE奮闘記』技術評論社、2004年

 酒井順子『負け犬の遠吠え』(講談社、2003年)は自ら「負け犬」を宣言することで「勝ち犬」が「負け組」であることを「勝ち組」のキャリアウーマンとして誇るという逆立ちしたものだったが、扇田夏美の場合は「華やかなキャリアウーマン」ではなくエンジニアという「職人的、仕事人的スタイル」を選択し、「デキる女」風にキメるゲームからは勤務中に「つっかけ」を履きたいがために降りてしまう。「自分のことにしても、人のことにしても、「負け組」「負け犬」などと表現できるのは余裕と自身のある人だけ」とSEに徹する扇田は醒めている。個人的には本書を言説としての「女」というよりは、言説としての「SE」として読んだほうが楽しい。職業に関する言説は、成功談や作品集や(成功にたどり着くまでの)苦労話がほとんどであるが、SEは他の職種のそれらと異なって類似する書籍が多い。これはこれで興味深いので、「SEとして生きることの社会性」をこうした言説から浮かび上がらせることを時間があったらしてみたい……。(『女性ITプロフェッショナルのホンネ会議―男だらけの業界で生きる55のヒント』(日経BP社、2004年)、葵沢速人『それでもSEになりたいか』(ソフトバンクパブリッシング、2003年)、きたみりゅうじ『SEのフシギな職場―ダメ上司とダメ部下の陥りがちな罠28ヶ条』(技術評論社、2003年)などなど)