東海大学の思い出

 2023年3月末で東海大学を退職しました。2010年4月着任なので、13年間お世話になりました。着任当時は34歳で、気がつけば白髪交じりの47歳です。
 文化社会学部(着任時は文学部)広報メディア学科ではメディア論や社会学に関する講義科目を担当しました。また調査系の科目では『ワードマップ エスノメソドロジー』を教科書に芸人のやりとりを分析する演習を行い、広告系の科目では商品企画とデザインをリニューアルする演習を行いました。
 ゼミでは都市論や都市社会学系の文献を読み、商業施設や公共空間におけるメディアやデザインを調査する質的研究で卒業論文指導を行いました。このテーマにしたのは、新宿や渋谷などに魅力をほとんど感じていない学生たちに、本厚木や海老名、相模大野や町田と何がいかに違うのかを実際に調べてもらいたかったからです。以下は、これまでの卒業論文の題目です。

  • 2012年度:「女子の女子による女子でいるための居場所」「保育所化する駅」「ESPRESSIVO!表情豊かな「クラシック音楽」と聞いて人は何を想像するのか?」「本屋のテーマパーク化」「治安と広告都市」「人から見るコミュニティ、街から見るコミュニティ」「コミュニケーション能力の高いおたく女子はオタクなのか」「スター」「<金沢は都市なのか、郊外なのか・・・>」「宗教という物語」「ギャルにおける見た目とコミュニケーション~言動の真意と世間の反応~」「女の子の空間遊び 新ラブホテル論」「街の変化 -個性ある街と個性を失う街-」「カフェから見る消費社会論 ~記号消費から空間消費へ~」「制度に回収されない都市(文化)は可能か」「今、オタクはどこに居るのか?~オタクを探して明らかになる視覚的都市アキハバラ~」「「○○女子」のイメージ戦略と「DIY女子」の実態の差」
  • 2013年度:「Barでの空間消費方法と参入障壁について」「本屋の雰囲気を作り出すのは何か」「東京なのに「地下」」「個人化を促す都市とゲーム」
  • 2014年度:「ノスタルジアの失敗 ~レトロ商店街における胡散臭さの正体とは~」「ラーメンと女子 ~おひとりさま女子の居場所~」「脱高額化する女子の消費 ―なぜ高額商品は売れなくなってしまうのか―」「書店に個性は求められているのか? ―個性派書店の「個性」とは何か考える―」
  • 2015年度:「文房具は個性を表すか 制限を受けない自己表出の道具としての文房具」「「大人向け」とは誰のためのものか」「“re”とは何か? 「再」はオリジナルに代わりえるのか」「イートインスペースの利用状況の現状 〜空間設計と滞在時間の関係〜」「どうして監視カメラの位置は不規則なのか?」
  • 2016年度:「私たちにとって交番とは何か~どうして交番はそこにあるのか~」「スポーツ施設の多機能化、複合化とは何か?〜指定管理者時代のスポーツ施設というゾーンの変容〜」「人間にとって歩車分離社会とは何か」「商業施設のトイレの多機能化~プライベート空間の演出~」「劇場は大衆化しているのか〜観客が作る観劇文化〜」「商店街を歩くとは如何なる事か〜構成要素としての街路灯〜」
  • 2017年度:「「イートイン」と「テイクアウト」 −イートイン化する社会のなかのCVS−」「喫煙空間の変容 喫煙をコントロールすることはまちづくりになりえるのか」「なぜゲームセンターはなくならないのか? 「競争」と「共有」から見れる空間の仕組み」「雑誌通販 なぜ雑誌通販は無くならないのか」「路上の転用とグラフィティ なぜ、落書きは無くならないのか」「観光客の地図事情 デジタルサイネージに出来ることは何なのか?」「多様化する屋上の活用 屋上は危険な場所から安全な場所に変わったのか」
  • 2018年度:「移行空間 異世界に向かうための道」「ギャンブル空間におけるハマる仕組みとそのデザイン 環境が生み出すギャンブル依存」「コインランドリーの変容 サードプレイスとしてのコインランドリー」「公園は誰のものか ~禁止する公園~」
  • 2019年度:「工夫という視点からみた「待つ」空間:パーティションと感情の関係」「サインは人々の行動を変えるか:当たり前の行動とルール」「公衆トイレにおける無言のコミュニケーション:貼り紙から見る利用者と管理者の関係」「掲示板のメディア論:「言葉」の掲示板」「プレミアム化による新たな空間の誕生と消費行動の関係:課金と格安を使いこなす意味とは」「自由空間としての銭湯:銭湯の可能性」「「声」の空間・雀荘:誰が暗黙の了解を作るのか」「商店街のチェーン店がつまらないのは?:和菓子屋から見える商店街の個性」「リノベーション建築と馴染みの社会学:空間に秘める善意と記号論」「ストリートか?駅直結か?:渋谷再開発がもたらした簡略化とその実態」
  • 2020年度:「地下空間のナビゲーション ~地下街にどう入るのか、どう歩くのか~」「トラブルに応じてどのように変わるか:駅前広場が都市空間たらしめる要素とは」「無視される入口:入口はどんな動作をもたらすか?」
  • 2021年度:「看板・張り紙から読み解く公園~公園という自由な空間~」「変化し続ける自動販売機:自動販売機は環境や需要によってどのように変化、進化をしているのか」

 広報メディア学科ではゼミや卒業論文が必修ではなかったので、年度によって提出数が異なります。またコロナ禍になってからは、ゼミを履修する学生が減少しました。
 振り返ってみると、テーマを決めたゼミ生に参考文献を紹介したうえで調査サンプルを100個提出させるやりとりが一番楽しかったです。「見たいところしか見ない」学生には、この作業が苦痛だったようです。こちらとしては「一度は嫌いになってもらい、それでも調べる必要があるのか?」を確かめる作業だったので、残念ながらここで諦めてしまった学生もいました。
 サンプルを100個集めるためにはそれなりの工夫が必要で、その工夫がどういう前提に基づいているのかを聞き出したり、集めた後にどのような基準で分類しているのかを言語化してもらうことで、指導を深めていきました。結果的には、この13年間で商業施設や公共空間におけるメディアやデザインにどのような変化があったのかという記録になったように思います。パンデミックによって変わる前の社会の風景の記録という感じでしょうか。
 この13年間で沢山の出会いがありました。心よりお礼申し上げます。そしてみなさんのこれからのご活躍をお祈りしております。4月からは筑波大学(人文社会系、社会・国際学群社会学類、大学院人文社会科学研究群国際公共政策学位プログラム)で働くことになりました。今後ともどうぞよろしくお願いします。