2021年:回顧と展望

 コロナ禍二年目。オンライン授業に慣れて少しは楽になるかと思ったが、昨年とは質的に異なる疲れを感じた一年だった。四月からの緊急事態宣言下では飲食店のラストオーダーに合わせて移動する生活が長く続き(研究室を18時に出ないと間に合わない…)、またライブなどでストレスを発散する機会も少なく、なかなか思うようには過ごせなかった。7月と8月にワクチンを接種し、感染者数が減り始めた9月から少しは楽になるかと思いきや、これまでの疲れがどっと出てペースを落とすことに。はい、「中年」をちゃんと受け入れた年になりました。
 今年の業績は以下のとおり。

・「デザイン選考における専門家と市民の関係:2025年大阪・関西万博ロゴマークと2020年東京大会エンブレムの比較」『東海大学紀要文化社会学部』(第5号)、東海大学文化社会学部、2021年2月、pp.1-22、https://researchmap.jp/takashi-kashima/published_papers/32109136
・「2020年オリパラ東京大会のデザインを振り返る」、Tokyo Art Beat、2021年10月21日、https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/olypara2021_series1_

 専門家と市民の関係については科学技術社会論で長らく論じられてきたが、いよいよデザインの専門家も市民参加を無視できなくなった。「みんなが褒める専門性」から「みんなが突っ込める専門性」への移行期なんだと思う。
 こうした市民参加を「新自由主義」と結びつけて理解するかどうかは、議論がわかれるところ。市民参加を行政のコストカットと見なして一足飛びに批判するのではない社会学的な記述を目指したのが、関東社会学会での研究委員会の活動。6月のテーマ部会は盛況だったが、来年は解題に何をどのように書けばよいのか…。

・加島卓+元森絵里子「解題 第68回大会テーマ部会B報告 : ワークショップ時代の統治と社会記述 : まちづくり・ワークショップ・専門家」『年報社会学論集』(第34号)、関東社会学会、2021年7月、pp.29-36
・(司会)「ワークショップ時代の統治と社会記述――現代史の社会学的再考――」関東社会学会研究例会、2021年3月21日、オンライン、http://kantohsociologicalsociety.jp/meeting/information.html#section_2
・(司会)「ワークショップ時代の統治と社会記述——「新自由主義」の社会学的再検討」第69回関東社会学会大会テーマ部会B、2021年6月12日、オンライン、http://kantohsociologicalsociety.jp/congress/69/points_themeB.html

 延期されていた「佐藤可士和展」も二度目の緊急事態宣言下に開催され、三度目の緊急事態宣言で会期が予定よりも早く打ち切りに。この展示も評価がわかれたのだが(https://oxyfunk.hatenablog.com/entry/2021/04/29/182859)、この仕事をきっかけに「デザイン・ミュージアム」について本格的に考えるようになった。文化資源学会での報告を通じて、業界団体や経済産業省から声がかかるようにもなった。また、東京都現代美術館で開催された「石岡瑛子展」の図録解説に博論本への言及があったのはとても嬉しかった。

・「佐藤可士和論」、『佐藤可士和展 公式図録』国立新美術館、2021年2月、pp.283-299、https://www.asahi.com/event/SDI202103036216.html
・Takashi Kashima, Kashiwa Sato: Sociology-Based Study of Design in Japan, in Kashiwa Sato, eds. The National Art Center (Tokyo: TBS):340-357
・「デザインを展示するとはいかなることか」文化資源学会特別講演会、2021年7月18日、オンライン

 今年の一冊を挙げるならば、トーマス・S・マラニーの『チャイニーズ・タイプライター』。これは書評を書く機会までいただき、本当にありがたかった。新聞書評(900字)は最後の150字くらいで勝負するのだが、その前置きがいかに大変なのかを知った。マスコミ学会でのワークショップでは仙台にある古本屋「火星の庭」の前野久美子さんらとやりとりできたのが楽しかった。

・「漢字実装めぐる苦闘の物語:書評『チャイニーズ・タイプライター』」『日本経済新聞』2021年7月10日朝刊、https://www.nikkei.com/article/DGXKZO73728030Z00C21A7MY5000/
・「都市と広告」、横浜国立大学都市科学部(編)『都市科学事典』春風社、2021年、pp.620-621
・(討論者)「書店がつなぐローカルとパブリック――小さな経済とコミュニティの可能性」日本マス・コミュニケーション学会2021年春季大会、2021年6月6日、オンライン

 年末に柏木博先生がご逝去(https://www.yomiuri.co.jp/culture/20211215-OYT1T50223/)。竹尾賞をいただき、博士論文の審査をしていただき、『オリンピック・デザイン・マーケティング』の帯に推薦文も書いていただきました。実は二ヶ月までメールでやりとりをしていたので、突然のお知らせに驚きました。ご冥福をお祈りいたします。

 来年は英語論文がいくつか出る予定。国際ジャーナルに"Design history of the Tokyo 2020 Olympic Games: Emblem Selection and Participatory Design"(査読有り)、紀要に「2020年東京大会エンブレム問題と社会学的記述」の英訳版、それからドイツで出版される Why Art Criticism? というReaderに"This Excess Called Lassen: What is it that Art History Cannot Write?"というラッセン論が掲載されます。海外の研究者との交流が進んだのは嬉しかった。

 あとは、『デザイン史の名著(仮)』ですね。柏木博先生にも執筆を宣言しておりましたので、来年こそこれを書き進めます。本年もお世話になりました。来年もどうそよろしくお願いします。