2018年:回顧と展望

 『オリンピック・デザイン・マーケティング』(河出書房新社)から一年。書評や著者インタビューが出て(日本経済新聞毎日新聞図書新聞、東京人)、全国学図書館協議会選定図書にも選ばれ、2018年は恵まれた年だった。
 関連イベントでは、河尻亨一さんと佐野研二郎さんへの評価を共有することができた。永田晶子さんとのイベントは日本デザイン振興会から声を掛けて頂いたもので、JAGDA(日本グラフィックデザイナー協会)でも告知され、トップページのバナー画像(東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会エンブレム第1回設計競技について)が削除されるなど、ある種の応答を感じられる年でもあった。

・【対談】加島卓+河尻亨一「2020年の東京とデザイン」(2018年1月17日、二子玉川蔦屋家電)、https://note.mu/oxyfunk/n/n90ec9d607108
・【対談】加島卓+永田晶子「『オリンピック・デザイン・マーケティング エンブレム問題からオープンデザインヘ』発刊記念トーク」日本デザイン振興会(2018年3月21日、東京ミッドタウン)、https://www.jidp.or.jp/ja/2018/04/10/odm_report?query=tagNames%3DREPORT%26categoryCodes%3Dtokyodesign2020
・【報告】加島卓「エンブレム問題から考える社会とデザイン」東京大学・社会を指向する芸術のためのアートマネジメント育成事業(AMSEA、2018年6月18日(月)、東京大学)、https://amseaut.blogspot.com/2018/06/amsea2018b1-12.html

 『現代文化への社会学』(北樹出版)もようやく刊行。大学生よりも専門学校生が輝いて見えた1990年代をどう書くのかはまだ悩んでいる。これは学部生向けの教科書なので90年代論ではなく、90年代に若者だった親世代とその子ども達の関係を踏まえた友達親子時代の文化社会学にしたつもり。
 「外食:セルフサービスの空間と時間」は、本務校の学生に町田のせこい居酒屋に連れて行ってもらったのが執筆のきっかけ。飲み放題+食べ放題なのにお皿やグラスの交換ルールがすごく厳しく、ちっとも落ち着かなかった。「書店:邪道書店の平成史」は、2015年にやっていた町田×本屋×大学がきっかけ。ブックカフェで働きたい人は増えても、本棚を作れる書店員が増えるわけではないのが難しいところ。
 『メディア社会論』(有斐閣ストゥディア)もやっと刊行。ウェブ広告の動向を追いかけるのは本当に大変なのだが、2014年頃に導入されたアドテクノロジー(リアルタイムオークションなどの広告配信技術)は画期的だったと思う。その業界で活躍している卒業生に原稿を読んでもらったりした思い出の原稿。

・「書店:邪道書店の平成史」+「外食:セルフサービスの時間と空間」、高野光平+加島卓+飯田豊(編著)『現代文化への社会学:90年代と「いま」を比較する』北樹出版、2018年、https://www.amazon.co.jp/dp/477930587X/
・「ネット広告の功罪:監視社会と消費行動への自由」、『メディア社会論』有斐閣、2018年、https://www.amazon.co.jp/dp/4641150559/

 学術誌関係は三つ。

・「広告研究の方法としてのオーラル・ヒストリー―広告史を中心に―」『メディア史研究』(第43号)メディア史研究会、2018年3月、pp.36-52、http://www.yumani.co.jp/np/isbn/9784843353356
・「書評:「被害者」の資料をいかに扱うか」『戦争社会学研究』(第2巻)戦争社会学研究会、2018年、https://www.mizukishorin.com/02-4-2
・「メディア史とメディアの歴史社会学」『マス・コミュニケーション研究』(第93号)日本マス・コミュニケーション学会、2018年7月、pp.61-74、https://www.jstage.jst.go.jp/article/mscom/93/0/93_61/_pdf/-char/ja

 報告関係は二つだが、今年はラジオの仕事もあった。

・「『スポーツ雑誌のメディア史』を読む」京都大学大学院教育学研究科ミニ・シンポジウム「スポーツ・メディア研究のデザインをめぐって」(2018年1月21日、京都大学教育学部第一会議室)、https://www.educ.kyoto-u.ac.jp/archives/5930
・「〈西から〉広告の歴史を考える:萬年社(大阪)を中心に」日本マスコミュニケーション学会第36期第5回研究会(メディア文化研究部会、2018年3月16日(金)関西学院大学大阪梅田キャンパス)、http://www.jmscom.org/event/meeting/36/36_05.pdf
・【ラジオ出演】加島卓「そのコトにプレミアム料金を払いますか? 〜課金化する社会」『文化系トークラジオLife』(2018年8月26日、TBSラジオ)、https://www.tbsradio.jp/290876

教育関係だと、本郷で講義の機会を頂いた。

・2018年度秋学期 東京大学文学部「社会学特殊講義IX(デザインの社会学)」

 本務校はいよいよ10年目。仕事も白髪も増えてきた(涙)。1月14日(月・祝)には、湘南蔦屋書店で『現代文化への社会学』へのトークイベントがあります(http://real.tsite.jp/shonan/event/2018/12/-1990.html)。来年は東大での講義ノートをまとめ、『デザイン史の名著』(仮)を書くのが目標。

 今年もお世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いします。

2017年:回顧と展望

 本務校も八年目。すっかり中年の顔になりましたが(涙)、今年は何よりもエンブレム本を刊行できたのが嬉しかったです。脱稿したのは三月中旬で、四月から六月に下読みと加筆修正を行い、八月から一〇月はゲラの校正、そして一一月と一二月に販促イベント。エンブレム本に関する研究報告もいくつか行い、ありがたいコメントを沢山頂きました。三月の脱稿した夜に新宿のとんかつ屋『三太』へ駆け込み、帰りに南口前の歩道を誰もよりもゆっくり歩いたのは忘れられません。

・『オリンピック・デザイン・マーケティング:エンブレム問題からオープンデザインへ』(河出書房新社、2017年)、https://www.amazon.co.jp/dp/4309248357/、※サポートページ(http://d.hatena.ne.jp/oxyfunk/20171120
・「デザインは社会を変えることができるのか」、幅允孝(監修)『デザイン イズ デッド?』ダイヤモンド社、2017年1月、pp.48-53、https://www.amazon.co.jp/dp/4478068712/
・「エンブレム問題と「出来レースかどうか?」:旧エンブレム選考過程に関する調査報告書とJAGDA文書」、第11回史料データセッション(2017年5月20日学習院女子大学
・「エンブレム問題の社会学:市民参加型社会における専門家の居場所」、第65回関東社会学会大会(2017年6月4日、日本大学文理学部)、http://kantohsociologicalsociety.jp/congress/65/program.html
・「エンブレム問題からオープンデザインへ」、第63回文化社会学研究会(2017年6月10日、早稲田大学
・「オリンピックと都市景観の社会学:マークの不正利用からエンブレムの商業利用へ」第90回日本社会学会大会(2017年11月4日、東京大学
・加島卓+山本貴光「エンブレム問題から考えるデザインの過去と未来」(2017年12月20日、神楽坂・モノガタリ

 エンブレム本以外だと、書評の仕事が多い年でした。厳密に言うと、書評以外の仕事を先送りするしかない状態だったので(すみません…)、来年は挽回に努めます。

・「書評 『映像文化の社会学』」『書斎の窓』(第650号)有斐閣、2017年3月、pp.65-69、http://www.yuhikaku.co.jp/static/shosai_mado/html/1703/11.html
・「地方暮らしの幸福論をめぐって:轡田竜蔵『地方暮らしの幸福と若者』の書評」、2017年度青少年研究会第1回例会(2017年5月13日、日本大学文理学部
・「書評:木下直子著『「慰安婦」問題の言説空間』」2017年度戦争社会学研究会関東例会(2017年12月2日、埼玉大学

 博論本に続きエンブレム本も「歴史社会学」だったため、方法論に関する仕事もありました。メディア史、社会史、歴史社会学、社会構築主義知識社会学、言説分析、概念分析あたりに沢山のヒントを頂いているので、それらをどうまとめるのかが来年以降の課題。

・「広告研究の方法としてのオーラル・ヒストリー:広告史を中心に」、メディア史研究会2017年度研究集会(2017年9月2日、アジア会館)

 教育関係だと、本務校の教え子の結婚式に出たり、武蔵美の教え子の活躍を知れたことが嬉しかったです。本務校は来春に改組を控え、文学部から文化社会学部になります。非常勤先は早稲田大学中央大学、武蔵野美術大学桑沢デザイン研究所でしたが、来年は少しやり方を変えます。今年もいろんなお話がありましたが、この社会は本当に複雑ですね。これからも丁寧に頑張ります。
 一月には、『〈広告制作者〉の歴史社会学』の二刷が出ます。ありがたいことに、エンブレム本関係でイベントがいくつか続きます(1月17日(水)に二子玉川蔦屋家電で河尻亨一さんとトークイベント、1月21日(日)に京都大学で『スポーツ雑誌のメディア史』と『オリンピック・デザイン・マーケティング』の合同セッション、2月10日(土)に双子のライオン堂で読書会)。書評や著者インタビューも予定されており、より多くの方に読んで頂けると大変幸いです。

 今年も大変お世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いします。

オリンピック・デザイン・マーケティング

 このページは、加島卓『オリンピック・デザイン・マーケティング:エンブレム問題からオープンデザインヘ』(河出書房新社、2017年、https://www.amazon.co.jp/dp/4309248357/)を紹介するものです。ここでは本に関する情報(まえがき、目次、正誤表、書評、関連情報など)を公開します。

▼概要
 本書は「パクリかどうか?」や「出来レースかどうか?」という論点を抱えた2020年東京大会エンブレムをめぐる混乱が一体何であったのかを、デザインの歴史およびマーケティングの歴史を参照しながら問い直したものです。
※2018年度全国学図書館協議会選定図書
▼推薦文

2015年、突如出現した2020年東京オリンピックパラリンピック「エンブレム問題」。デザインのオリジナリティとは何なのか、デザインのコンペはどのように行われてきたのか、主催団体、広告代理店、メディアそして市民はそれぞれどのようにかかわってきたのか。本書は、デザインや広告の歴史を丁寧に検討し、実は「エンブレム問題」とはその真偽を越えて、はるかに複雑な社会学的な事件であったことを照射する力作である。
――柏木 博(デザイン評論家/武蔵野美術大学名誉教授)

エンブレム問題は、東京五輪の時だけではなかった。「あの騒動」を検証するだけでなく、デザインや広告の抱える本質的課題に迫る、文化社会学の新たな羅針盤
――荻上チキ(評論家/編集者)

▼著者インタビュー

・話題の新刊『オリンピック・デザイン・マーケティング』著者・加島卓氏インタビュー――「エンブレム問題」とはいったい何だったのか、いまだから問い直す(Web河出、2017年11月24日)、http://web.kawade.co.jp/bungei/1711/

▼まえがき

・まえがき公開! 話題の新刊『オリンピック・デザイン・マーケティングーーエンブレム問題からオープンデザインヘ』のねらいとは?(Web河出、2017年12月11日)、http://web.kawade.co.jp/bungei/1754/

▼目次

まえがき
第1章 美術関係者からデザイン関係者へ
 1−1 オリンピックシンボルとエンブレム
 1−2 幻の東京大会と美術関係者
 1−3 東京大会と亀倉雄策
第2章 「いつものメンバー、いつものやり方」へ
 2−1 日本万国博覧会と勝見勝
 2−2 札幌冬季大会・沖縄国際海洋博覧会とデザイン関係者
 2−3 マークの「作り方」
第3章 デザイン関係者から広告関係者へ
 3−1 マークの乱用と商業利用
 3−2 広告代理店の登場とロサンゼルス大会
第4章 エンブレムとオリンピックマーケティング
 4−1 寄付からマーケティング
 4−2 長野冬季大会とスポンサー優先社会
 4−3 「作り方」から「使い方」へ
第5章 東京大会への道
 5−1 ロンドン大会と知的財産保護
 5−2 電通と大会招致
 5−3 東京大会とデザイン関係者
第6章 エンブレム問題:パクリかどうか?
 6−1 発表から取り下げまで
 6−2 ネット世論と識者の説得
 6−3 佐野案の「作り方」と「使い方」
第7章 エンブレム問題:出来レースかどうか?
 7−1 広告関係者への疑惑と選考方法
 7−2 組織委員会による参加要請文書
 7−3 「作り方」と「使い方」の調停
第8章 新エンブレム:市民参加とオープンデザイン
 8−1 市民参加とエンブレム委員会
 8−2 専門性 対 大衆性
 8−3 市松模様と意図せざる結果
あとがき

▼関連イベント

『オリンピック・デザイン・マーケティング』刊行記念
「エンブレム問題から考えるデザインの過去と未来」加島卓&山本貴光トークイベント
日時:2017年12月20日(水) 19:00〜21:00 (18:30開場)
場所:神楽坂・モノガタリ
詳細:http://www.honnonihohi.jp/detail/385
当日の動画:https://www.youtube.com/watch?v=Kuwr3wCmWaI

『オリンピック・デザイン・マーケティング』発売記念
加島卓+河尻亨一トークイベント「2020年の東京とデザイン」
日時:2018年01月17日(水) 19:00〜20:30(開場 18:40)
場所:二子玉川蔦屋家電 2Fダイニング
詳細:http://real.tsite.jp/futakotamagawa/event/2017/12/2020.html

「スポーツ・メディア研究のデザインをめぐって」
 佐藤彰宣『スポーツ雑誌のメディア史―ベースボール・マガジン社と大衆教養主義』と加島卓『オリンピック・デザイン・マーケティング:エンブレム問題からオープンデザインへ』の合同セッション。
日時:2018年1月21日(日)14時〜17時
会場:京都大学教育学部第2会議室
詳細:https://www.educ.kyoto-u.ac.jp/archives/5930

『オリンピック・デザイン・マーケティング』読書会
日時:2018年2月10日(土)15時半〜17時半
会場:赤坂・双子のライオン堂
詳細:https://peatix.com/event/334709

『オリンピック・デザイン・マーケティング エンブレム問題からオープンデザインヘ』発刊記念トーク(聞き手:永田晶子)
日時:2018年3月21日(祝・水)17:00-19:30(開場16:30)
会場:インターナショナル・デザイン・リエゾンセンター
(港区赤坂9-7-1 ミッドタウン・タワー5F 東京ミッドタウン・デザインハブ内)
主催:日本デザイン振興会
詳細:http://designhub.jp/events/3709/
当日のレポート:https://www.jidp.or.jp/ja/2018/04/10/odm_report

▼書評など

・「そもそも何が解決していないのか、問題の本質はどこにあったのか、それすら満足に語られないままだった。加島はエンブレム問題を「デザインの盗作問題」に矮小化せず、社会におけるデザイナーの在り方に踏み込んだ事件として扱う。21世紀のデザイナーが取り組むべき本質的課題をあぶり出す社会学書」『アイデア』(第380号)誠文堂新光社、2017年、http://www.idea-mag.com/idea_magazine/380/

・「読了して感じたのは、日本でも海外でも、そして過去も現在もオリンピックというものは、"揉め事"がとても多いイベントであるということ。…(中略)…。加島氏は、慎重に筆を進めながらも、ある"結論めいたもの"へと至る。そこが本書のクライマックスだ。「オリンピックとデザイン」をテーマにした歴史書でありながら、膨大な資料を整理し再構築する著者の手つきが鮮やかで、推理小説のようなスリルもある。加島氏はさながら探偵のようである」(河尻亨一「東京五輪「総合プランニングチーム」発表のタイミングでエンブレム騒動を振り返る【書評】」Yahoo!ニュース、2017年12月23日)、https://news.yahoo.co.jp/byline/kawajirikoichi/20171223-00079617/

・「第一に、前著との関係で言うと、専門職という見立て。デザイナーと広告代理店(電通)の立ち位置の違いは面白いです。…(中略)…。イリイチ的な専門職批判以来の「専門性と大衆性」古典的な命題とも関連しています。…(中略)…。第二に、資本主義(あえて古い言葉を使って恐縮ですが)という視点からの広告代理店を描いていること。…(中略)…。この部分だけでも、経済史・経営史研究者、それから政策研究者も読む必要がある。…(中略)…。第三に、とにかく決定プロセスが丁寧に描かれています。…(中略)…実証を重んじるタイプの政治史、経済史、経営史研究の人たちにとっても読みごたえがあるのではないか」(金子良事「加島卓『オリンピック・デザイン・マーケティング河出書房新社、2017年」社会政策・労働問題研究の歴史分析、メモ帳、2017年12月29日)、http://ryojikaneko.blog78.fc2.com/blog-entry-489.html

・「日本のあの騒動はやはり異例の事態だったと思わざるをえない。…(中略)…。幻となった佐野研二郎氏によるエンブレムは優れたデザインだったと私はいまでも考えている。その選定に携わった人々も「よい良いものを選びたい」という意欲で参加ていたのだろう。だが、互いを慮った結果、個々人の良心は日本的な「忖度」の沼で溺れることになった。本書ではその経緯や原因も、研究者の目でクールにあぶり出している」(河尻亨一「エンブレム問題の真相」『福島民友』2018年1月6日、『沖縄タイムス』2018年1月13日、『新潟日報』2018年1月14日 ※共同通信社配信)、https://sites.google.com/site/oxyfunk/public/20180106-fukushimaminyu.jpg

・「議論のポイントは、オリンピック自体の変貌とともに、エンブレムに関して、その「作り方」から「使い方」へと焦点が移っていったこと。…(中略)…。そのボタンのかけ違いが、あの騒動の最大の要因だった…(中略)…、根気強くその議論を追っていけば、パクリか否か、やらせか否かといった短絡的な問いが、くだらないものに思えてくることは間違いない」(難波功士「「エンブレム騒動」の深層探る」『日本経済新聞』2018年1月27日朝刊)、https://sites.google.com/site/oxyfunk/public/20180127-nikkei.jpg

・「本書は膨大な量の史料や報告書、当時の記事を調査し、ツイッターなどソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)にも目配りして実相をあぶり出す。…(中略)…。「今に始まったわけでない」デザインを巡るもめ事の多さを明らかにした。…(中略)…。考察は多岐にわたるが、ハイライトはやはり「パクリ」「出来レース」疑惑の核心。緻密な分析を積み重ね、説得力がある説明を導き出す手法は、推理小説の「安楽椅子探偵」のようだ」(「『オリンピック・デザイン・マーケティング』 著者・加島卓さん」『毎日新聞』2018年1月28日朝刊)、https://sites.google.com/site/oxyfunk/public/20180128-mainichi.jpg

・「東京オリンピックのエンブレム問題…(中略)…本書はこの顚末をハイライトにすえた大著だが、いわゆるドキュメントではない。もっと大きな視野から、エンブレム問題の意味を掘り下げた歴史社会学の研究書である。…(中略)…。本書は、その後の騒動について、ネットが大きな影響力をもつようになった状況、出来レースと疑われたコンペの手続き、そして新しく選ばれた野老朝雄のデザインと市民参加の関係、という切り口から検証する。まさにエンブレムは時代の動向を反映してきたことが理解できる。…(中略)…、今後、建築の分野で、本書のように歴史的な文脈を踏まえた研究書の登場が望まれる」(五十嵐太郎「デザインから、時代の動向を読む歴史社会学」『東京人』都市出版、2018年4月号)、https://sites.google.com/site/oxyfunk/public/20180302-tokyojin.jpg

・「本書の圧倒的なボリュームに驚かされた。盗用かどうかといった印象論に与することなく、さまざまな関係者の言説や史料が丹念に跡づけられたことで、一種の謎解きを味わいながら、読者はこの問題の全容解明に迫ることができる。…(中略)…、専門家でなくとも理解しやすいように、重要な論点は太字で強調され、大変読みやすいものとなっている。本質的にはデザイン史や広告史を対象にした歴史社会学の書であるが、五輪をめぐる歴史社会学としても多くの論点を提供している」(石坂友司「東京2020オリンピック・パラリンピックの大会エンブレムのデザインとマーケティングを読み解く」『図書新聞』第3347号、2018年4月14日)、https://sites.google.com/site/oxyfunk/public/20180414-toshoshinnbun.jpg

▼エクストラコンテンツ

・『オリンピック・デザイン・マーケティング:エンブレム問題からオープンデザインへ』への補遺(1)、2018年1月14日、https://note.mu/oxyfunk/n/n90ec9d607108

▼本書の成り立ち
 これまでに公表したエンブレム問題への見解は以下の通りです。

・「グラフィックデザインと模倣の歴史的な関係:亀倉雄策佐野研二郎」(2015年7月30日)
http://d.hatena.ne.jp/oxyfunk/20150730
・「デザインは言葉である:東京五輪エンブレムと佐野研二郎」(2015年8月5日)
http://d.hatena.ne.jp/oxyfunk/20150805
・「アートディレクターと佐野研二郎」(2015年8月15日)
http://d.hatena.ne.jp/oxyfunk/20150815
・【ラジオ出演】「東京五輪エンブレム問題。その本質を考える?」(2015年8月18日、TBSラジオ『Session-22』)
http://www.tbsradio.jp/ss954/2015/08/20150818-1.html
・【記事内コメント】「「酷似」ネット次々追跡」『朝日新聞』(2015年9月2日朝刊)
http://www.asahi.com/articles/DA3S11943116.html
・【記事内コメント】「Net critics central to Olympics logo scandal」『The Japan Times』(2015年9月3日)
http://www.japantimes.co.jp/news/2015/09/02/national/olympics-logo-scandal-highlights-power-of-the-internet-critic/#.Ver5WM4fNjc
・【テレビ出演】「東京五輪エンブレム“白紙撤回”の衝撃」『クローズアップ現代』(2015年9月3日、NHK
http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3700.html
・【寄稿】「市民参加への道を探ろう」『毎日新聞』(2015年9月4日朝刊)
http://mainichi.jp/shimen/news/20150904ddm004070017000c.html

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・【記事内コメント】「現代デザイン考:五輪エンブレム問題/1 亀倉雄策の“呪縛”」『毎日新聞』(2015年10月27日夕刊)
http://mainichi.jp/shimen/news/20151027dde018040061000c.html
・【対談】河尻亨一+加島卓「五輪エンブレム問題、根底には「異なるオリンピック観の衝突」があった:あの騒動は何だったのか?」『現代ビジネス』(2015年12月28日)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47099
・【対談】河尻亨一+加島卓「「五輪エンブレム調査報告書」専門家たちはこう読んだ〜出来レースではなかった…その結論、信じていいのか?」『現代ビジネス』(2015年12月29日)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47141
・【対談】河尻亨一+加島卓「デザイナーをアーティストに変えた広告業界の罪〜日本のデザインはこれからどうなる?:五輪エンブレム騒動から考える」(2015年12月30日)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47191
・【記事内コメント】「五輪エンブレム 国民の意見に期待…最終候補に4作品」『毎日新聞』(2016年4月9日朝刊)、http://mainichi.jp/sportsspecial/articles/20160409/k00/00m/050/085000c
・加島卓+永井幸輔「東京五輪2020エンブレム騒動以後のグラフィックデザイン」『アイデア』(第374号)誠文堂新光社、2016年7月、pp.125-131、http://www.idea-mag.com/idea_magazine/374/

※被引用記事:増田聡「オリジナリティと表現の現在地──東京オリンピック・エンブレム、TPP知的財産条項から考える」
http://10plus1.jp/monthly/2016/01/issue-03.php

KoSACの書評会

 KoSAC(Kokubunji Society for Arts and Culture、通称コサック)を一緒にやってきた東京経済大学の光岡寿郎さんの博士論文が刊行され、その書評会を行うことになりました。

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【KoSAC共催】光岡寿郎『変貌するミュージアムコミュニケーション:来館者と展示空間をめぐるメディア論的想像力』を読む

 このたび、6月に『変貌するミュージアムコミュニケーション:来館者と展示空間をめぐるメディア論的想像力』(せりか書房)を出版された光岡寿郎氏をお招きし、同書の合評会を開催することとなりました。同書は、英米圏のミュージアムにおけるコミュニケーション概念の歴史的変遷を描き、ミュージアムを多様なコミュニケーションを媒介するメディアの構造体<メディア・コンプレックス>として捉え直したものです。評者には、それぞれメディア研究、ミュージアム研究、学習研究と異なる研究分野を持つ皆さんにご登壇頂き、ご自身の問題関心に沿って、論点の共有を図ってもらいます。その後は、光岡氏からの応答に留まらず、参加者の皆さんと活発な意見交換ができればと考えています。本会は、公開研究会です。ミュージアムをフィールドに、まさに学際的な議論が展開されるはずですので、奮ってご参加ください。

日時:2017年8月5日(土)15:00-17:00
場所:東京大学本郷キャンパス 福武ホール1階 会議室
赤門を入って左折。手前に見えるコンクリート建築の一階。会場は施錠されておりますので、時間に遅れる方は問い合わせメールアドレスまでご連絡下さい。
詳細:http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/access/

評者:飯田豊立命館大学産業社会学部准教授)、潘夢斐(東京大学学際情報学府博士課程)、杉山昂平(東京大学学際情報学府博士課程)
応答者:光岡寿郎(東京経済大学コミュニケーション学部准教授)
司会:藤嶋陽子(東京大学学際情報学府博士課程)

共催:東京大学大学院学際情報学府学生有志(藤嶋陽子・潘夢斐・杉山昂平)/KoSAC
参加無料・一般参加歓迎(会場準備の都合上、下記まで事前のご連絡をお願いいたします)
※終了後、懇親会を予定しております。(本郷周辺)

申し込み方法
7月28日までに、下記の問い合わせ先アドレスに下記を記載のうえお申込み下さい。
(1)お名前、(2)ご所属、(3)連絡先emailアドレス、(4)懇親会参加の有無
問い合わせ先 藤嶋陽子 yokofujishima[at]g.ecc.u-tokyo.ac.jp

2016年:回顧と展望

四十代になって一年目。外出を極力控え、ひたすらエンブレム本をを書いている一年だった。

・「誰もが広告を語る社会:天野祐吉と初期『広告批評』の居場所」、齋藤美奈子+成田龍一(編著)『1980年代』河出ブックス、2016年、pp.290-304、http://www.amazon.co.jp/dp/4309624898/
・「東京五輪2020エンブレム騒動以後のグラフィックデザイン」『アイデア』(第374号)誠文堂新光社、2016年7月、pp.125-131、http://www.idea-mag.com/idea_magazine/374/

 単行本の原稿に集中していたため、今年は刊行物が少ない。『1980年代』の「誰もが広告を語る社会」は雑誌『広告批評』のバックナンバーを読みながら書いた論文で、天野祐吉の批評観と消費者目線の広告語りがどのように出会ったのかを書いたもの。ピップエレキバンの社長が出演していたテレビコマーシャルの独特な違和感について書けたのは楽しかったが、あの違和感について誰とも話せていないのが寂しい。毎日新聞がこの論文に言及してくれたのは嬉しかった(「「未知の世界」が始まった80年代」『毎日新聞』2016年4月4日夕刊
http://mainichi.jp/articles/20160404/dde/018/040/053000c)。『アイデア』の「東京五輪2020エンブレム騒動以後のグラフィックデザイン」は三月のトークショーの抄録。

・「デザイナーと書くこと:東京五輪2020旧エンブレムの審査委員・平野敬子のブログ記事を読む」、第6回史料データセッション(2016年1月25日、東海大学高輪キャンパス)
・「東京五輪2020エンブレム騒動以後のグラフィックデザイン」、クリティカル・デザイン・スクール(2016年3月12日、横浜BUKATSUDO)、http://bkd-cds.peatix.com/
・【記事内コメント】「五輪エンブレム 国民の意見に期待…最終候補に4作品」『毎日新聞』(2016年4月9日朝刊)、http://mainichi.jp/sportsspecial/articles/20160409/k00/00m/050/085000c
・「依頼したデザインの拒否はいかにして可能か:大阪万博1970公式マーク選定をめぐる会議録を読む」、第7回史料データセッション(2016年4月30日、学習院女子大学
・「デザインを理解するとはいかなることか:東京五輪2020のエンブレム問題を事例として」、第64回関東社会学会大会(2016年6月4日、上智大学
・「東京五輪2020エンブレム問題をいかに考えるか:市民参加型社会における専門家と市民」、日本マス・コミュニケーション学会 2016年度春季研究発表会(2016年6月18日、東京大学本郷キャンパス
・「デザインを理解してもらうとはいかなることか:東京五輪2020旧エンブレム原作者の記者会見を事例に」、第64回データセッション(2016年7月31日、成城大学
・「日本におけるオリンピックシンボルの使われ方の変遷:マークからエンブレムへ」、第8回史料データセッション(2016年8月17日、学習院女子大学
・「エンブレム問題とインターネット世論:社会現象としてのパクリ探し」、第61回文化社会学研究会(2016年12月10日、早稲田大学

 エンブレム問題関連で研究報告を重ねた一年である。一月から執筆を始め、もう一度修士論文を書くような気持ちだったのだが、そんなに甘くはなかった。文献を読み、あちこちで史料を探し、夏にはロンドンへ調査にも行った。おかけでメモは膨大となり、構成は何度も作り直し、とても一年で書き上げられる本ではないことが判明した(笑)。新書のつもりが選書になり、選書のつもりが選書二冊分になり、いまや博論本と同じくらいの分量になりそうなのだが、とにかく年度内には脱稿したい。

・2016年度− 早稲田大学文化構想学部「デザイン論」(非常勤講師)
・「ふぉんとってどんな歴史があるんだろう?〜社会学からみるふぉんとのはなし〜」早稲田リンクス(2016年7月)、http://www.waseda-links.com/column7/

 新しい展開としては、早稲田大学でも非常勤講師を始めたこと。トーキョーに行かないと死んじゃう病が年々酷くなってきたので、これには本当に助かった(笑)。「へぇ」と思ったのは、学生が自分の専門を踏まえてコメントカードを書いてくれること。今までいろんな大学で教えてきたけど、こういうのは初めてだったので、こちらもしゃきっとした。「ふぉんとってどんな歴史があるんだろう?〜社会学からみるふぉんとのはなし〜」は受講生によるインタビュー記事で、とてもよい出会いだったと思う。
 来年は三月末までにエンブレム本を脱稿し、『〈広告制作者〉の歴史社会学』の二刷と共に刊行するのが最初の目標。一月末には、インタビュー記事も出る。出版企画もいくつか抱えているが、査読論文の投稿や国際学会での発表もしたい。白髪も増えてきたのだが(涙)、楽しくやっていきたいものである。
 今年もお世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いします。

東京五輪2020の新エンブレムについて

 二〇一五年九月に取り下げ・再募集された東京五輪2020のエンブレムが決まった(https://tokyo2020.jp/jp/games/emblem/)。模倣を疑われ、原作者の問題や審査委員会の不正行為も明らかになった前回の反省を踏まえ、今回は市民参加と審査の透明性を重視して選んだものである。
 全体として円の要素が強い東京五輪2020のエンブレムは、東京五輪1964の発展形として見ることができる。大きく一つに塗りつぶされた円から、四十五個の構成要素を組み合わせた円になったことで、多様性を肯定するようになった現代社会を表しているようにも見える。「江戸の市松模様」を知らない人には「目がチカチカ」するかもしれないが、日本の国旗さえ知っていればそれと重ね合わせて見ることもできる。
 ここまでを振り返ると、「適切な手続き」が何度も強調されたのが印象的だった。再募集前にインターネットでアイデアを募集し、18歳以上なら受賞歴に関係なく誰でも応募できるようにした。エンブレム委員にはデザイン関係者以外も多く含まれ、審査の一部は動画配信を行い、最終候補案に対して広く意見を求めた。このすべてに関わった市民がどれほどいたのかはわからないが、今までよりは開かれた選考だったと言える。
 発表記者会見では「A案ありきではないか」や「最終候補の繰り上げは適切だったか」という質問もあり、組織委員会への信頼や東京五輪2020への期待はまだ高くはない。誰からも批判されないデザインは存在しないと思うが、エンブレムを選び直すことを急いだ分だけ、五輪にとってそもそもエンブレムとは何なのかを議論する機会を逸してしまったようにも思う。
 「どのように選ぶのか」の次は、「いかに使うのか」である。しかし、エンブレムは公式スポンサーしか使うことができない。みんなで選んでも、みんなが自由に使えるわけではないのだ。このように商業利用と強く結びついたエンブレムのあり方を見直すことは、五輪のあり方を見直すことにもつながるのではないか。
 東京五輪2020のエンブレムは「パクリかどうか」に始まり、「出来レースかどうか」を経て、「日の丸に見えるかどうか」に落ち着いたと考える。グラフィックデザインにしかできないことは何であり、その専門家と市民の関係はいかにあるべきか。それらのことを考えさせられた九ヶ月だった。

エンブレムの最終候補4作品について

 2015年9月に撤回され、再募集することになった東京五輪2020のエンブレムは、エンブレム委員会による審査で4点に絞られ(応募総数:14,599→形式チェック:10,666→一次審査:311→二次審査:64→三次審査:4)、商標に関する調査と手続きが完了し、最終候補の4作品が公開され、国民から意見を募ることになった(https://tokyo2020.jp/jp/games/emblem/evaluation/)。最終審査は4月25日に行われ、エンブレム委員による議論と投票を経て決定し、理事会で承認する運びだという。

 この件についての見解は『毎日新聞』(2016年4月9日朝刊、http://mainichi.jp/sportsspecial/articles/20160409/k00/00m/050/085000c)にも掲載してもらったが、以下ではその元原稿を公開する。200字の予定と言われ、記者会見から一時間でまとめらたのは600字だった(笑)。一言で言えば、東京五輪2020のエンブレムは「パクリかどうか」から「出来レースかどうか」を経て「日の丸に見えるかどうか」に落ち着くのではないかと思う。

 【総評】今までになく丁寧に選ばれたと思うが、子どもが真似できない模様だなと思った。多様性を肯定する時代になって、デザインの構成要素や色が複雑にならざるを得ない現状を見せられたようにも思う。そしてこれに商標や様々な制約条件が加わるので、シンプルなデザインで独自性を主張できない現代社会を象徴しているように見える。
 【個別評価】最終候補4作品についてはエンブレムだけでなく、タイトルやコンセプトと一緒に評価したほうがよい。説明があれば、デザインの見方を定められるからである。説明がなければ、見た目の印象論が一人歩きする。その上で見解を述べると、A案は「多様性という価値」、B案は「動きと速度」、C案は「身体の拡張」、D案は「未来への時間」を描いているように見える。
 【最終審査に向けてのポイント】円の要素をどれだけ残すのかだと考える。円の要素が多ければ、エンブレムを「日の丸」として見ることも可能になる。円の要素が少なければ、それをどのように見ればよいのかというコンセプトが重要になってくる。国旗を想起させない微妙な工夫をどう評価するのかがポイント。
 【選考過程について】参画や透明性が強調され、今までよりは開かれていたと思う。しかし、このプロセスの殆どに関わった市民がどれだけいたのかは疑問で、インターネットのなかのお祭りだったようにも見える。またエンブレムは公式スポンサーが利用することが前提なので、そもそも市民が自由に使えるわけではない。公式スポンサー以外も使える「第2エンブレム」のほうが、市民参加と相性がよいとも思う。

 総評の「子どもにも真似できない模様」が記事で削られたのは、とても残念。しかし「多様性を肯定する時代になって、デザインの構成要素や色が複雑にならざるを得ない現状」はとても重要なので、掲載されてよかった。要するに、多様性を認めれば認めるほどいろんな要素をデザインに盛り込まなくてはならなくなって、子どもにはよくわからないデザインになるよねってお話。
 個別評価は従来通りの主張で、デザインをどのように見るのかはコンセプトと不可分の関係にあるってお話。大喜利をしてもいいけど、その前にコンセプトは読んであげてねと言っておきたかった。個人的な見解は急いで書いたものなので、もう少し時間をかけてゆっくり見てみたい。
 最終審査に向けてのポイントは、国旗との切り離しをデザインを評価するポイントにすれば面白くなるのではないかと思った。円の要素は出てくるだろうと思ったので、その消し方を競い合うようなコンペティションになったと思う。
 選考過程については、書いてあるとおり。いやしかし、エンブレムを使えるのは公式スポンサーであり、市民は自由に使えるわけではないってことを強調しておきたかった。ここまで騒いで「市民参加」を導入したのだが、そもそもというお話。
 新聞記者に「どれが一番だと思いますか?」と聞かれたが、「4つに共通点はないので序列はつけられない。あとはどのコンセプトを選ぶのかという決断だと思う」とお返事した。個人的には、似たようなものを4つ選ぶのではなく、似ていないもので4つまで絞り込んだことは評価したいと思う。
 以下は昨晩の段階で用意していた草稿。書いておいてよかった。

 2015年9月に撤回され、再募集することになった東京五輪2020のエンブレムは、エンブレム委員会による審査で4点に絞られ(応募総数:14,599→形式チェック:10,666→一次審査:311→二次審査:64→三次審査:4)、商標に関する調査と手続きが完了し、国民から意見を募ることになった(25日に正式決定の予定)。
 エンブレム委員会の設置(9月)から最終候補案の公開(4月)までを振り返ると、ここまでの作業は最優先で進められたように見える一方で、国民の関心は旧エンブレムのようには高まらなかったように見える。原作者の問題とは別に審査委員会での不正および不適切な行為が明らかになり、組織委員会への信頼やオリンピックそのものへの期待が高い状態にあるとは言いにくいからである。
 閉鎖的と批判された前回の反省を踏まえ、今回は市民参加を強く意識したと思う。まず、再募集する前にインターネットを使って広くアイデアを募集した。そして、18歳以上なら受賞歴に関係なく誰でも応募できるようにした。さらに、選考を行うエンブレム委員にはデザイン関係者以外も多く含まれ(デザインのチェックはグラフィックデザイナーが行った)、審査の一部は動画配信も行った。このプロセスの殆どに関わった市民がどれだけいるのかはわからないが、少なくとも今までよりは開かれていたとは言える。専門家に任せると選考結果を知らされるだけなのだが、市民参加で選ぶと決定までの手続きが冗長に見えることもある。
 応募要項に従えば、タイトル(20字)やコンセプト(200字)と一緒に提出されているはずなので、エンブレムだけで評価すべきではない。エンブレムをどのように見ればよいのかは、タイトルやコンセプトと不可分の関係にあると考える。オリジナルだと思っていたものが模倣にしか見えなくなってしまったように、説明の仕方が変われば、デザインの見え方も変わる。説明がなければ、見た目だけの印象論が一人歩きする。エンブレムに対してどのようなコンセプトが与えられているのかを見極めた上で、市民がそれぞれに自分たちの見方を語ればよいのではないか。
 エンブレムは公式スポンサーが利用することが前提なので、使用ルールは厳しく、そもそも市民が自由に使えるわけではない。再募集を経て最終候補案まで絞り込まれたわけだが、誰もが使えるわけではないエンブレムに対して、市民がわざわざどのような意見を言えばよいのかは意外と悩ましい。公式スポンサー以外も使える「第2エンブレム」を作るという案も出ており、こちらのほうが市民参加で選んでいくことと相性が良いようにも思う。
 東京五輪1964のシンボルマークが印象に人びとの残ったのは、日本の国旗さえ知っていれば、誰でもあの赤い丸を「日の丸」と重ね合わせて理解できたからである。これに比べて、札幌五輪1972のシンボルマークや長野五輪1998のエンブレムをどれだけの人が記憶しているだろうか。エンブレムに円の要素を残せば、それを「日の丸」として見ることも可能になり、説明が少なくてもわかったことにできる。エンブレムから円の要素が消えれば、それをどのように見ればよいのかというもっともらしい説明が必要になってくる。どのようにでも見ることのできるデザインに対して、「そういう説明がありえるのか!」と驚かせてくれるエンブレムであってほしい。