あぁ、俺はVJだったのか。

 講義へのコメントの中に「今日のビデオの選択は…」とあって、「あぁ、俺はVJだったのか」と知る。笑いがとれない芸人の見習いだが、「映像や、パワーポイントがあって、楽しいです!」という優しい声を、そのまま受け止めてあげられるようになりたい。

 6月14日(土)に勤務校の一つでオープンキャンパスがあり、そこで公開授業を行うことになった(http://apm.musabi.ac.jp/projects/oc/2008/blog/)。当日配布のパンフ用に、以下のようなエッセイを書いてはみたものの、これじゃ人を惹き付けられないな…と、またもや反省。気の利かない営業の見習いだが、「もっと大学のことをわかりやすく!面白く!」という声に、少しは応えてはいきたい。 

「確実な答なんて、ない」

 もし「大学で何を教えているのか」と聞かれれば、「社会には決定的な解答がないこと」と答えるだろう。確実な解答に至るまでを教えるのではなく、解答と呼ばれるものの不確実さを知り、それとどのように付き合い続けられるのかを考えてみること。その意味で、大学は「教える場所」ではなく、「考える場所」である。

 私は芸術文化学科(芸文)で、「ヴィジュアル・コミュニケーション・デザインIA」(VCD)と「メディアと表現」を担当している。VCDは2年生向けの実習科目であり、メディアと表現は3年生向けの専門理論科目である。ここでそれぞれを、簡単に紹介してみよう。

 VCDでは、展示会カタログのブックデザインを行っている。といっても、この授業では「いかに美しく制作できるのか」を目指してはいない。それよりも重要なのは、「なぜそのように制作しなくてはならないのか」を説明できるようになることである。

 というのも、芸文で身につける専門性は、表現そのものではないからである。企業での企画や広報、イベントのプロデュースやコンサルティングなどに携わる芸文生に必要なのは、表現活動をめぐる人々の関係性を編み上げる力である。その意味で展示会カタログを作ることは、その企画者の立場になり、アーティストやデザイナーと市民を結びつけていくためのトレーニングだと言えよう。

 したがって、閃いたままに作ることは重要ではない。むしろ、そのように作ってしまえること自体を疑いながら、作るための「理由」を徹底的に考え抜く。このような反省的な活動を通して、やがてはいかなるクライアントとも「プロレス」できるようになってもらうのが、VCDの目指すところである。

 メディアと表現では、「メディア論」という考え方を身につけることを目指している。といっても、この授業では新聞からケータイまでの最新動向などを学ぶのではない。それよりも重要なのは、思考や実践の「方法」としてメディア論を身につけることである。

 それを端的に言えば、「メディアはメッセージである」(マーシャル・マクルーハン)という命題が意味するところを、考えてみることである。ケータイで告白するのと、手紙で告白するのとでは、なぜ相手に受けとられる印象が異なるのか。また面と向かって議論をするのと、インターネット上で議論をするのとでは、なぜ議論の進み方が異なるのか、等々。

 要するに私たちは、コミュニケーションされる内容が同じであっても、コミュニケーションの形式が異なることにより、生じる意味が異なってしまうことを直感的に知っている。また私たちは、どんなに努力をしても、自分の意図に反して、コミュニケーションが失敗してしまうことがあるのも知っている。メディア論を「方法」として身につけるとは、このようなメカニズムを内在的に理解し、「完全なコミュニケーションなど存在しない」という事実と付き合い続けられるようになることとも言えよう。

 社会には、決定的な答がない。だからこそ、考え続けなくてはならない。このような日常を生きる私たちにとって、VCDやメディアと表現は、人々との関係性を反省し、コミュニケーションの不確実性を自覚するためのトレーニングである。「終わっている…」と言うこと自体が終わっているからこそ、全てを相対化するのではない、実直な思考と実践ができるようになること。芸文の面白さと難しさは、この点に賭けられている

 これでもう、『ACADEMIC GROOVE』をネタにすることは出来なくなりました。

ACADEMIC GROOVE―東京大学アカデミックグルーヴ

ACADEMIC GROOVE―東京大学アカデミックグルーヴ


 ところで、「「「○○は気持ち悪い(http://www.youse-factory.com/purpose.html)」というお前が気持ち悪い(http://yousefactory.web.fc2.com/index.html)」というお前が…、という連鎖を一時停止したという意味において、「せんとくん」(http://www.1300.jp/news/2008/05/post-1.html)に対する「まんとくん」(http://creators-yamato.net/mascot.html)の提案は評価できると思う。