*[critique]思想のウィキペディア化
対談集は麻薬である。とにかくこれを読んでしまうと、いろんなことが理解できた気分になってしまうので、恐ろしい。その理由は、おそらく口語体にある。口語体で語られる難しいことは、それなりの理解を与えてくれる。そしてこれは文章にして考え直す必要を見事に忘れさせてくれる。だからこそ、難しいことは口語体のまま記憶し、音として反復してしまう。ついつい、これで自分が語っている気分になってしまうのである。これに一度はまると、なかなか抜け出せない。
勿論、「入門」として対談集を読むことには意味がある。註や参考文献が充実している対談集は、立派な読書案内だとも言える。しかしそうした対談集の語り口はとても分かり易いがために、見事に読者を汚染してしまう。真面目に読めば読むほど、論理的な再構成をスルーしたまま、難しい言葉が量的に淡々と記憶=保存されていくのだ。
これは「思想のウィキペディア化」とでも呼ぶべきなのか(笑)。ブログにおける文体(もしくはブックマークのリスト)と、対談集ににおける口語体は、非常に抽象度の高い言葉が単語レベルで登録され、配列されているという点において共通している(ように思う)。思想への関心の高いブロガーの増加と対談集のちょっとしたブームは、そんなに遠い話ではないはずだ。
おそらく対談集は「啓蒙」の初期プロジェクトとして提出されているのだろう(と勝手に信じている)。知識を増やすことによって、損をすることはないだろうし、ここからさらなる読書も期待できる。だからこれが「思考停止」の誘発とならないよう、知ったかぶりにならないよう、自戒をこめてソーっと頁を進めるしかないのである。「アイロニー」「ロマン主義」「環境管理型権力」「動物化」「積極的自由/消極的自由」……などで何でもかんでも理解してしまわないようにしなくてはならないのである。マイルールは「文章を書く前に対談集は読まないこと」だ。
とここまで語ったものの、結局のところは近刊の対談集『郊外から考える』(NHK出版、2007年)が楽しみなのです…。ごみんなさい。
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