政治的無関心の徹底
左翼が「保守論壇のおもしろさに勝つことのできない」のは、「政治的言説のゲームのルールが決定的に変わってしまった」からだという(毛利嘉孝「ストリートが左翼を取り返す」『論座』4月号、朝日新聞社)。確かに『諸君!』(4月号、文藝春秋)を立ち読みし、「金持ちの金持ちによる金持ちのためのオリンピック」(姜尚中の発言)を引用し、ここでの「金持ち」を「金正日」に変えることもできようと述べた論考に読んだところ、真面目に批判するよりも、素直に笑っちゃったほうが健康的なのだと思う。
とはいえ、これが素朴に無批判を意味するのでもない。「政治的言説のルール」が変更されたのであれば、それを見極め、「おもしろさ」をネタとして笑いつつ、ウケるのか、ウケないのかを評価していくことも可能なはずである。“確かに笑っちゃったけれども、それは言い方に過ぎないよね”というように、笑いながらも一定の冷静さを保つことはそんなに難しいことではない。とりわけこうした二重の態度は、太田省一が『社会は笑う』(青弓社、2002年)で述べたように、1980年代以降のお笑いブームのなかで私たちはしっかりと身につけたはずである。
だとすれば、保守論壇の“そこまで言いますか!”的なパフォーマンス=ボケに対してベタに反応するのではなく(左翼の終焉)、“おもしろいけど、ウケないよ”と応答=ツッコミをすることも可能であろう。このように保守論壇のおもしろさをそのまま引き受けつつも、なんでもかんでも簡単に「政治」に昇華させない努力をしてみること。これこそ、「ボケとツッコミの人間関係」を生きる人々の戦略とも言える。
「おもしろさ」を反復的に提出する言説に対し、政治的無関心をあえて徹底すること。問題の先送りのようにも思えるこの戦略こそ、「政治的言説のゲームのルール」を揺さぶる者への真摯な対応なのではないだろうか。
社会は笑う―ボケとツッコミの人間関係 (青弓社ライブラリー)
- 作者: 太田省一
- 出版社/メーカー: 青弓社
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連載「デザイナーと素養」の第3回「「都市=銀座」としてショーウヰンドー」がようやく出ました。簡単に紹介すると、まずは私たちがある商店街を「銀座」と呼んでしまうのは何故なのかを述べ、次に1920年代の考現学徒が「都市=銀座」としての「飾窓」に注目していたことを述べ、さらに当時のデザイナーたちが「ショーウヰンドー」に関心を寄せることで「都会人」の演出家を自認していたことを述べた上で、そのショーウヰンドーの制作においてどのようにネタ空間が観察されていたのかを記述しています。個人的にはデザイナーにおけるメディア・リテラシー=媒体素養の歴史を書いているつもりなのですが、じわじわとシステム論の影響が…。ご意見、ご批判、よろしくどうかお願いします。
季刊graphic / design グラフィックデザイン 3号
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