自由(フリー)という事

oxyfunk2004-09-15

 お宝発見。論文モードという言い訳/本当の所はただのお掃除、では(今になって)いろいろと見つかる。
 1990年代のDTPブームは単に技術的進歩だけでなく、1980年代に用意された「クリエイティブ」へのイメージ(眼差す対象)やリテラシー(読み書き能力)の増強の上で捉えられるべきだろう。1980年代に勢いをもったようにみえた広告を積極的に摂取した人々が、クリエイターを芸術家のように特別な(自分はなれない)存在ではないかもしれないと(自分もなりえると)対象化したからこそ、1990年代に量産化された小型カメラやコンピュータにある特定の意味をもたせて利用する社会的文脈が生まれたと考えるべきだろう。
 そうした時代のアウトプットの一つとしてフリーペーパーやフライヤーが考えられる。僕が発見した『GOMES』(パルコの月刊誌)のバックナンバー(1995年1月〜12月)。1989年5月に創刊した『GOMES』は「ファッションビジネス紙「Fizz」とティーンズペーパー「Pnuts Press」を統合し」たものらしく、「そのため、創刊号なのに表紙と奥付には「No.180」の文字がある」ようだ。ちなみに創刊号は「表紙・裏表紙を含め全16ページ。カラー8ページ・2色刷り8ページ。 全体的に見ると情報記事・コラムの集合体という感じ。あまり長文はない。」だとか。フリーペーパーとしては立派すぎじゃん。
 廃刊(1996年)直前の1995年12月では「自由(フリー)という事」を特集している。丁度、クリエイターとフリーターの相互関係を書いていたところなので★★★★☆。あ、もちろん「フリー」であることと「フリーター」であることは「クリエイティブ・ワーク」という媒介項によってかなり重なってはいるものの、そのまんま同じとはいえません。当号の「フリー列伝」には下記の3人が紹介されている。

・藤谷清美さん(当時31歳、カメラマン、フリー歴5年):「一発あててやるゾ、という野心」に支えられている。「フリーになりたての頃は、営業の日々」。「とはいっても、紹介以外の営業は、先ず仕事がこないと思っておいたほうがいいかもしれない」。
・津山晋さん(当時27歳、コピーライター、フリー歴6年):「何を隠そう、小学校の頃のコピーライターブームですっかりその気になったクチ。その野望をかなえるべく、大学時代に広告プロダクションでバイトを始めたんです。そこで、たまたま僕が書いた企画が某企業のコンペで通って、一気に百万円を超えるギャラを手にする」。「こんなにおいしい仕事ならと、学校もやめていきなりフリーになってしまった」。その半年後にバブル崩壊を迎え、「夜勤の仕事をやりながら、昼は飛び込みで営業しまくり」の生活へ。やがて仕事がくるようになってからは、「昼頃起きて、コピーを考えたりする仕事は夜10時、「ニュースステーション」と同時に始める」生活に。「まず10時になったらとにかく着替える」(笑)。にも関わらず、「僕の名コピーの数々は、多摩川ファミリーレストランで生まれることが多い」とか。
・鈴木一美さん(当時23歳、スタイリスト、フリー歴2年):「フリーになったらこれ(諸々の仕事)を自宅でもくもくと作業するのですが、ふとむなしくなる時もあります」。「経理やギャラ高尚などお金に関することも全部自分でしなければならないもの、すごく苦手なので、いつも困っちゃいます」。

 なるほど、フリーとして働くことは「華やかに見える」かもしれないが、その「世界の裏側」には、地道な営業、不規則な就業時間、業務上の金銭管理などすべてが自分でコントロールできると同時にその跳ね返りもすべて自分が引き受けなければならないのである。当時の『GOMES』的には、「収入の半分以上がバイトで賄われている人は、フリーではなくフリーター」であるようだが、現在のクリエイティブワークでは(1)クリエイターになるためにフリーターをする、(2)フリーターとしてクリエイターをする、という双方が働き方としてあるので「フリーではなくフリーター」という言い方は現在的には難しい(『トーキョー・フリーター・スタイル:東京に暮らす49人の「時間」と「お金」』中央公論新社、2004年)。むしろ、収入の半分以上がフリーターとしてのものでも、それがクリエイティブワークである限りフリーと捉えうる、というところか。
 それにしても、サラリーマンに比べて「不安定」と言われがちにフリーな生活であるが、なぜ人を惹き付けるのだろう。そりゃぁ、ゆっくり起きることができたり、平日の午後に映画を見られたり、などがるでしょうが、しばしば語られるのは「一山当てれば大きい」という夢物語(これは現在のコンテンツ産業振興で繰り返されている!)であり、そのことが特に「広告関係」と結びつけて考えられているのは興味深い。広告制作者として働くことのイメージを知るための一つはとはなりそうだ…。
 
※参考
・GuCHuGuCHuSCRiBBLe(フリーペーパーの巻)
http://www.geocities.co.jp/Technopolis/9584/freepaper/gomes.html