古本の修復、消えたしおり紐

 近所の古本屋が岩波新書の赤版(1938-1946)を複数入荷していたので、西田幾多郎『日本文化の問題』(岩波新書、1940年)を80円(!)で購入。新書としての通し番号は60、発行は1940年3月だが、印刷は1942年9月(5刷で10000部)、配給元は日本出版配給株式会社(戦中はこの統制組織を経由しないと出版できなかった)。しかし問題が一つ。背表紙がボロボロで、表紙と分離寸前の状態。古本の保全は、切実な問題だ。
 
 そこで、本を修復する講習会に行って来た。用意するべきものは、はさみ、修復用フィルム、定規、修復したい本のみ。修復方法は、(1)背表紙のみのフィルムがけと(2)修復と表紙・背表紙・裏表紙すべてのフィルムかけ。単行本と新書・文庫の場合とでは、少しだけフィルムのカット方法が異なる。図書館司書を対象にした講習会だったので、仕上がりもプロ仕様。先までしっかり切れるはさみを使うことと、フィルム内に空気を入れないために定規で引き延ばしながら貼り付けていくことがポイント。1時間弱で3冊を仕上げたが、慣れれば一冊につき5分程度だろう。ちょっとした「救命士」気分。
 
 帰宅してから、改めて修復済みの本を開く。そこで当時の岩波新書に「しおり」の紐がついていたことを始めて知った。新書=紐なしを当たり前としていた僕にとっては思いもよらぬ発見であり、鹿野政直岩波新書の歴史』(岩波新書、2006年)を開いてみるもの、関連記述は見つからず(予想された通り…)。新書から「しおり」が消えたのは、なぜ、いつ頃、どのようになのか。西田幾多郎である必要がまったくなかった些細な疑問ですが、ご存じの方は教えて頂けると幸いです。
 
 ブックケア用品は以下でも購入可能。しかし、図書館用のフィルムは市販されていない。勿論ブックカバーという暫定的な方法もありますが、透明フィルムによる保護のほうが修復としては確実(古本屋での価値は下がってしまうかもしれないけれども…)。一人でもできる作業ですが、はさみの入れ方程度のアドバイスなら可能です。

※講習会で使用した図書館用のフィルムと同類のもの 
http://www.filmolux.co.jp/library/index.html
※ネットで購入できる、ブックケア用品
http://www.yomupara.com/care.php

※追記:岩波書店では新書のQ&Aを公開しています(http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_siru/sirutop.html)。ところで、表紙・背表紙・裏表紙が完全に分離していてブックカバーで暫定的な処置をしていた、清水幾太郎『ジャーナリズム』(岩波新書、1949年)を本棚から探し出し、修復することにした。ささやかではあるが、小さな楽しみになりそうだ。

岩波新書の歴史―付・総目録1938?2006 (岩波新書)

岩波新書の歴史―付・総目録1938?2006 (岩波新書)