歴史を研究できてしまえること。

 2006年10月13日にソウル大学校社会科学大学言論情報学科で行われたシンポジウム「ニューメディア時代の個人、社会、国家と文化」に参加。「職業としてのメディア、クリエイターのアイデンティティ」と題して報告し、ソウル大の討論者には問題意識を理解してもらえたようで、ひとまず安心。英語であれ、同時通訳であれ、発表そのものの単純化は必要なので、日本語で事前に用意した原稿(韓国語にも翻訳済み)を読み上げた。
 
 会場では、東京大=歴史的・質的研究/ソウル大=経験的・量的研究という構図が何度もちらついた。しかし日本の研究者が歴史を扱えること自体、ある意味では「歴史の産物」といえないか。資料の残存量を考える上で、旧宗主国と旧植民地という関係は無視できないだろうし、その前提を無視して歴史研究を進めてみても、東アジアのポストコロニアル状況を知らず知らずの間に補強してしまうだけなのかもしれない。
 
 連載「デザイナーと素養」の第2回「「刺激」と「単化」の大戦ポスター」を掲載した『graphic/design』(no.2、左右社)が発売されました。今回は、まず「ポスター」という新しいメディアへの覚醒が「大戦ポスター展」という学校外の知から生じたことを述べ、次にポスターをめぐる公共圏において「刺戟」という新しいメディアの知が発見されたことを述べ、さらにそこでデザイナーの知的実践として「単化」が強調されたことを述べ、最後にこれらが日常世界をネタとして読み込んでいく眼の在り方であったことを述べています。個人的には、2001年から関わってきた「戦争とメディア研究会」の中間まとめとなっております。
 
 青山ブックセンタージュンク堂、リブロほか全国の大きな書店のデザイン棚周辺でどうぞ。目次は以下の通り。

季刊『graphic / design グラフィックデザイン』(創刊2号、左右社、2006年)

・寺門孝之  天使点画2 GALLERIA TERAKADO The Shadow of Where Angels Fear to Tread with Creeping Dragon
池澤夏樹  我が肺からの風 語り物からウィキペディアへ…2 
祖父江慎  “星の王子さま”20冊の身体検査 並べてみよう…1
・小柳学   ミルキィ・イソベのブックデザイン デザイン異評…1
・芦野公昭  ナディッフ店主 芦野公昭、デザインを糺し、書物を薦め、アートを叱る
鈴木一誌  アメリカのデザイン、中国のデザイン
・長谷川健郎 不可解な安息と危機感の不穏がページを汚染する 「奇妙な凪の日」から
・加島卓   「刺戟」と「単化」の大戦ポスター デザイナーと素養…2
斎藤環   ストラクチャーからテクスチャーへ
石川九楊  「国語」は「日本語」ではない 「国字」つれづれ…1
・栄元正博   Gothicーーゴシックからゴスへ 訛は進行する
府川充男+前田年昭 組版タイポグラフィ/歴史 赤崎正一、古賀弘幸 構成
・小柳学   デザインと幽霊
戸田ツトム モンドリアン・グリッド デザインのカオス…1

季刊graphic/design[グラフィックデザイン]2号

季刊graphic/design[グラフィックデザイン]2号