平野敬子編、日本デザインコミッティー制作『デザインの理念と実践』六耀社、2005年

 付属のDVDには、25名のインタビューがある。それぞれに5分前後のものであるが、これらは平野さんでなければ聞き取ることのできない貴重なお話だったと思う。意図なき取材はないので(それがあるから面白いし、その逆もある)、トリミングや編集をするのは構わない。だからこそ、そこにはこだわらず、平野さんもマイクをつけて、「ふー」とか「はー」とか、何を聞いているのかを声で教えてほしかった。
 とにかく、これを観れば、デザイナーが「デザイナー」であることを支えているのが「言葉」でもあることがよくわかる。彼らは彼らなりに話しかける言葉をもっているのであり、その意味で真剣に悩みつつも、力を抜いたりもしているのだ。デザイナーをしていると、「私は言葉ではなくてビジュアルですから…」といってしまいたくなることはあるかもしれない(僕はそうだった)。しかしながら、それによって、デザイナーにとっても、非デザイナーにとっても、いわゆる「デザイナー」が何に面白さや難しさを感じているのかがよくわからなくなってしまうのである。そうした難しさを正面から引き受けようとしている点において、このDVDは秀作である。なにかを無理矢理語らせようとしているのではなく、デザイナーそれぞれが「感じてしまう」何かについて、どこかはっきりはわからないままに語ってくれているのだから。「よくわからない、けど止められない」そんな素朴な想いが沢山つまったこのDVD、その言葉にならない言葉に耳を傾ける時こそ、僕たちがデザイナーにはならなくてもいいところで「デザイナー」を知るチャンスなのではないか。

デザインの理念と実践

デザインの理念と実践