山口誠「記憶の地層:眠るグアム」『朝日新聞』(2005年6月8日夕刊)
山口さんは、「教育熱心」な研究者。問題意識の持ち方、議論の運び方、論文の書き方など、何回かお時間を頂いた時に教えてもらったことは数え切れない。『英語講座の誕生』から「声の文化:オラリティ」や「生放送」の話まで、研究でも沢山のヒントを頂いている。そういえば「グアム」の話もされてましたね…。
「ガイドブックそのままに旅行する人は少ないが、ガイドブックの類をまったく持たずに旅する人は少数派だろう。ガイドブックは紹介地のリアリティーを誌面に現像し、紹介地にはガイドブックを見て行動する人々の轍が定着される。そうしてガイドブックと紹介地の間にはリアリティー循環の回路が開く。その結果、「楽園」グアムは年々縮小しているのである。…(中略)…。退屈な「楽園」と見なされてきていたグアムは、これまで「真面目な研究」の関心の外だった。こうした学術研究と、観光開発業者・観光客の二重の無関心が、グアムを縮小させ、日本人の記憶を縮小させている。」
これもまた、何を観て、何を観ないのかの社会性の議論。ある場所は、なぜ「楽園」として語られなくてはならないのか。そう呼ぶことでどんな欲望が満たされるのか。ある場所を「楽園」と呼ぶことで、私たちはどのような記憶と忘却の循環のなかに投げ込まれるのか。また、こうした研究者の区別が人々の区別と結託してしまうことに、研究者は自覚的でなくてはならない…。
英語講座の誕生―メディアと教養が出会う近代日本 (講談社選書メチエ)
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