酒井隆史『暴力の哲学』河出書房新社、2004年

 「暴力を拒絶することは、暴力を批判することには必ずしもならない、むしろ暴力の抽象的・一般的な拒絶は、暴力を呼び込んでしまう仕組みがある」という暴力の循環に対して「拒絶」ではない「反暴力」を構想するもの。政治を目的としない暴力と政治を超越した暴力が、<政治的なもの>の次元をすり抜けているとしている点は理解できるが、それらを「ネオ・リベラリズム支配下において現実に融合している」としている点は素朴な“ネオリベ還元論に思える。批判の対象が“国民国家”から“資本−ネオリベ”にスリップしただけ、というほど単純じゃないよね?と己の読みに突っ込みを入れつつ、「暴力に可能な限り内在して、その内側から暴力の経済をつかみ、その上で暴力的な状況をなんとか乗り越えよう」とする姿勢は受け止められる。ブッシュや石原を“バカ”と一蹴することで批判したつもりになるのは不味いのである。