「コンテンツ」の居場所。

 「プロデューサー元年:育成の現場から(上)」『朝日新聞』(2005年1月4日、25面)は、現在進行形のコンテンツビジネス人材育成が大学でどのように位置づけられているのかがよくわかる記事だった。調べていることとも重なるのでちょっとまとめてみよう。
 まず確認しておきたいのは、コンテンツ系で人材が不足しているのは「クリエイター」ではなく「プロデューサー」であること。「クリエイター」は人材派遣バンクに大量にいるし、それがクリエイターを目指す「フリーター」や「ニート」と重なってくるのは想像に難くない。このことは「フリーター」の生活を紹介する本や各省の「若者自立・挑戦プラン」をめぐる取り組みにも見ることができる。また経済産業省は「コンテンツ産業政策」、「人材ニーズ調査」、「クリエイター育成講座」などかなり精力的に取り組んでもいる。現在急がれているのは後者である「プロデューサー」の育成だ。資金調達・制作マネジメント・外部との折衝ができる者が決定的に少ないのである。
 つまり「制作する人」ではなく「管理できる人」の養成に力が注がれようとしているところを混同しないようにしておきたい。これはこれで必要なことではあるが、コンテンツ人材育成というよりは、「コンテンツビジネス人材育成」としてこの動きを捉えておくのが大事だろう。
 「誰がいるのか」「何が学べるのか」の詳細は重要視していないこと、内部事情を知っているかどうかではなくて流通しているものを整理していること、またすべてを見学したのではないので、以下は極めて印象論的な整理にすぎません。

・1994年に開学した専門学校が、構造改革特区を利用して2004年春から「株式会社による専門職大学院」として開校。コースは「コンテンツディレクタープログラム」と「ゼネラルプロデューサープログラム」で、学位は「デジタルコンテンツマネジメント修士(専門職)」。
・説明会でも強調していたのは「ITビジネス」と「コンテンツビジネス」の融合。この両者をわかりやすくいえば、インフラ設計とコンテンツ制作。なんとなく近いようで、実際には分化してしまっている両者をバランスよく学ぶとのこと。それから院生が学ぶことを学ぶための「アクティブラーニング」を強調しているのも特徴的。それから学問ではなくて実務重視であることも明確。
・「「顧客主義」を大学院運営に浸透させ、お客様の個別ニーズを捉えながら、院生一人一人の自己実現をお手伝いしたいと考えて」いるからか、学位修得までは最短1年から最長10年と幅がひ、ひろい。
▼仲間と説明会にいった時に話したのが、コンテンツビジネス人材育成は「ハードからソフトへ」の流れのなかで「電子立国」に代わる「コンテンツ立国」の要素が多分にあるので、「大物」志向のクリエイターがターゲットになってしまっているという点。これ自体はあっても構わないのだが、以下にみるように次々と既存の大学や大学院が「コンテンツ」を扱うようになると、デジハリの面白さが色褪せてしまうところも少なくない。「実務」を強調せざるを得ない難しさがあるが、それでも実践的プロジェクトは多いみたいだし、「コンテンツ」で学位がとれる楽しさはあるだろう。特に学部は一般大学よりもある意味で好きなことに焦点をあててそのまま就職につなげていくことができるかもしれない。しかし、他の選択肢を与えにくいのも痛いところか。

・「早稲田大学が推進している映像分野の教育研究と、ぴあの文化支援活動「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」が、双方の資源を活用し映画・映像分野における人材の発掘・育成・発表の機会を質的に大幅に向上させていくことによって今後の日本のエンタテインメント産業のさらなる発展に貢献」を目指す「産学連携」。
・「新人映画監督の登竜門的存在である「ぴあフィルムフェスティバル」(PFF)の入選者の数人を本学国際情報通信研究科(GITS)に奨学生として迎え入れる、PFF入選者が製作する映画に、本庄キャンパス内の最新映像機器、技術を提供する、GITSの学生らの作品を各都市で開催されるPFF等で上映する、等の協力」を行うもの。
▼映画製作における人材発掘をしてきている「ぴあ」との提携は他校の「産学連携」よりも具体的である。重要なのは「ぴあ」という独自のメディアをもっていること。育成した後は「頑張ってね」ではなくて、入選者を入学させて育成している点は特徴的だ。私用で何度か行ったことがある本庄キャンパスは、単に「遠い」の一言では簡単には済ませられない自然や学習環境の素晴らしさがある。埼玉県は「SKIP CITY」(NHKアーカイヴス他)など映像に力をいれているし、産学連携だけでなく地域振興としても期待ができそうだ。コースを新設するとかではないし、支援体制の規模は大きくないけれども、確実で現実性の高いプランだと思う。この研究科には「コンテンツ アンド クリエーション学会」事務局(http://www.sccc.jp/)もあり、「コンテンツ」について教えるだけでない総合的な体制が組まれている。

・「多様なコンテンツ領域(映画、アニメ、ゲーム等のエンターテイメント産業)において、必要不可欠は人材であるプロデューサー、技術開発者、 指導的教育者の育成を行うための教育プログラム」により、「プロデューサー(先端技術と国際的なコンテンツビジネスの高度な専門知識を有し、実社会で研究成果を活用できるプロデューサー) 」、「 技術開発者(表現手法に詳しく、エンターテイメント技術の世界的水準の技術開発をクリエーターと共に行える技術開発者) 」、「指導的教育者(プロデューサーまたは技術開発者に関する指導的教育者)」など「実践的な人材の輩出」を目指すもの。
・特徴としては、「2年で修了する副教育プログラムであり、大学院在籍中、あるいは学部3年次以上の学生を中心に募集」していると同時に「社会人」も受け入れていること。厳密には「履修生」であり、これは学部生でも院生でも研究生でもない。Q&Aには「それぞれの本業(自分の学科や専攻での勉学)をくれぐれも大切にしてください」ともある。
・「文部科学省平成16年度科学技術振興調整費人材養成プログラムの支援を受けており、東京大学情報学環が中心となり、大学院新領域創成科学研究科等の学内関連部局の協力を得て実施する2年間の履修コース」。
▼「創造科学」として「コンテンツ」を捉えようとしている。「技術開発者」や「指導的教育者」にも焦点が当てられているところが特徴的か。「国内」に限らず「海外」にも「インターンシップ」があり、これは詳細が気になるところ。かつて社会情報研究所研究生は一生懸命にマスコミの勉強したにも関わらず、マスコミ各社の人事担当には「白紙のままで来てほしい」とさっくりいわれることが少なくなかった。そもそも何のための「産学連携」になるのか、これはある意味でマジックワードだし、「コンテンツ」という言葉と相性が言いように聞こえるだけに気になる。「履修生」という微妙な位置でも、その修了後に役に立つものであってほしい。

京都精華大学は「人文学部(社会メディア・環境社会・人文・文化表現)」と「芸術学部(造形・デザイン・マンガ)」、「大学院(人文・芸術)」から成っていて、その公開講座として「映画プロデュース養成講座」がある。
・「日本の映画業界の現場で活躍しているプロデューサーを講師に迎え」、「映画の企画はどのようにして立案し、スタッフを集めキャストを決め、クランクインまで至るのか。劇場で公開されるまでの配給や宣伝はどのようにして行われているのか。収支はどのように成り立っているのか。海外の映画祭は何のために行われているのか。またそのフィルムの買い付けはどのように行われるのか」など、「映画プロデューサーの仕事を知るため」の講座。
・「コンテンツ産業の要となるプロデューサー人材の重要性を鑑み、日本におけるプロデュース機能強化のために必要とされる知識・ノウハウを体系化したカリキュラム・テキストのプロトタイプを策定。教育機関等においてカリキュラムを実験的に実施し、その評価」を行い、「今年度は、約20校の大学・専門学校が、実証講座の対象」となっている「経済産業省がコンテンツプロデューサー人材育成プロジェクト」の一環。セミナーのテキストは、経済産業省が製作した「コンテンツ・プロデューサー〜プロデュース機能の基盤強化に関する調査研究〜」を使用。
▼なぜ「公開講座」なのかと思ったら、政策の実証調査だった。いわゆる大学の公開講座はそれとしてとても大事な機会なのだけれども、なんというかそれだけ何が学べるのかというと難しい。参加者が問題意識を持っていると講師の小話がきっかけになっていろんなことが知れると思うのだが、そうでないと「小話」で終わってしまう難しさもある。テキストの実証をすることと、誰に向かってこうした機会を設けるのかが混同されていないといいと思う。知らないだろうと想定される人に知らないことを話せば、それなりの結果がでるのは当たり前なのだから。

・話題になったのは今年4月からの「映画専攻」であるが、今後「アニメーション専攻」「メディア映像専攻」が追加されて博士課程までが開設される予定。
・映画専攻は「監督・脚本・製作」と「映画製作技術」の2コース。プロデュースやマネジメント、ビジネスという言葉はなく、基本的には産業に貢献するための「専門家」「表現者」「製作者」「研究者」「実践者」の育成が目標。
・政策への言及はなく、ヨーロッパ・アメリカ・アジア地域で映画学科等を有する大学研究機関の調査が設立の前提になっている。設立予定の「メディア映像専攻」は、制作ではなく、流通や保存、知的管理などが射程に入っている。
▼「映像研究科」の特徴は「「映像文化都市」を標榜する横浜市との連携協力」。技術的な環境とは異なる意味で、どういう都市でどんな建物なのかという環境は制作者にも大事だろう。専攻名が「映画」や「アニメーション」とされているあたりは、「コンテンツ」という言葉への距離感のようにも思える。

・新設されるのは「マンガ・アニメーションコース」で、「いまや日本の文化産業に巨大な位置を占めるマンガとアニメーションについて、名作の鑑賞と文化的・実務的背景の学習、基礎的な知識と技術の習得、構想から作品完成までの具体的な実践、生活・ビジネスへの活用など、総合的な理解と創造の力を育て」るのが目標。
・「マンガ」「アニメーション」の制作と同時に、「事業の具体化と成功に不可欠な、企画、制作管理、広報・宣伝などのマネジメント能力も習得」する「マネジメント」も同時に習得させる。
▼基本的には制作者育成が中心で、「マネジメント」も射程にいれようとしている印象。「美術とメディアの新しい融合」たる「メディア芸術」を担う人材像が目標。制作者を育成するという文脈で「プロデュース」までを含めるのはここに限ったことではないだろう。「コンテンツ」という言葉は、ここにもはない。

造形学部映像造形学科他が「メディアコンテンツ学部映像造形学科(映画、マンガ・アニメ、ゲーム、放送、舞台芸術)」に再編され、新規に「コンテンツ・プロデューサ学科」が追加。
・「コンテンツ・プロデューサ学科はコンテンツの制作ではなく、商品としてのコンテンツの流通面に対応、処理するための経営的知識と技術を学ぶ学科です。プロデューサーにはコンテンツ制作チームのスタッフ全体を率いるリーダーシップ、関係者との調整能力のほか、コンテンツ制作についての知識・技術が求められるため、制作の基礎も同時に学んでいきます」。
・カリキュラムの特徴としては、「英語に加え、今後その市場の拡大が進む中国の言語を理解すること」が強調されていること、「コンテンツ・プロデューサーの直接的業務である企画、品質管理、資金計画、マーケティング、会計、配給、回収などの業務知識を修得するため、コンテンツ管理、コンテンツマーケティング、コンテンツ会計、コンテンツ財務などの科目を開講」すること。
▼独特の言葉はなく、政策に極めて忠実な印象。それでも同学部内に「クリエイター」育成のコースが複数あるので、そこと連携しながらあくまでも「プロデューサー」育成に焦点化していこうとするのは興味深い。両者を一つのコースのなかで育成しようとする動きが多いなか、分化しながら同一組織で育成できる面白さはあるのではないか。

・「デジタルメディア・コンテンツに関する総合的な研究を推進するために、 統合研究部門に6つの研究ユニットを設置し、コンテンツデザイン、eラーニング、 メディア技術、コンテンツ技術、国際流通、国際知財に関する研究開発による 具体的成果を国際的に発信」。
・「慶應義塾大学の5つのキャンパスに、学生が自由にデジタルコンテンツを 創造するためのオープンなデジタル工房を設置する。 この工房は、ノンリニア編集環境・CG作成環境・音楽編集環境・教材作成環境等を 整備したデジタルコンテンツ創造拠点となる」。
・「ニューヨーク、ケンブリッジ、北京、ソウルに海外ブランチを設置し、 情報ネットワークインフラの構築、デジタルコンテンツ共有、共同研究、 若手研究者人材育成等を実施」。
・「研究者の流動性を高めるとともに、研究の応用可能性を拡大するために、 企業および海外研究機関との間で産学共同研究コンソーシアムを実施」。
・「大学院国際教育コースを設置し、デジタルコンテンツ・デザイナー、 デジタルメディア・コンテンツ技術の先端研究者・技術者、 デジタルコンテンツの流通・知的財産権・標準化・セキュリティ・社会基盤構築等の 国際的専門家を各年度10数名程度の規模で養成」。
・「「Keio Digital Context Channel」 と呼ぶ、 デジタルコンテキストを世界に向けて配信する新しいコンテンツプロバイダを創設し、 国際社会へのデジタルコンテキストの流通を図り、 国内外にデジタルコンテンツを発信」。
・「本機構の統合研究部門、統合推進部門、国際連携部門、運用部門の活動を評価する ため評価委員会を組織し、その評価に応じて動的なスクラップアンドビルドを実施 するとともに、研究者の流動性と研究の先端性を維持・向上させる」。
▼まだ人材育成組織はないが、特徴的なのは「コンソーシアム」の設置。大学外部から資金協力を受付ながら、研究・開発・人材育成の総合的な整備を目指している。5年後に「国際産官学コンソーシアム」「デジタル・メディア・コンテンツ大学院」「Keio Digital Context Channel(コンテンツプロバイダー)」等が目標。独特の言葉としては「デジタルコンテキスト」contextual digital content (デジタルコンテンツ素材を利用目的に沿って生成・編集・加工・統合することにより デザインされる、シナリオをもったデジタルコンテンツ)で、「放送・映画・出版・アニメ・ゲーム等の産業に限定されていた デジタルコンテキストの創造と流通が、 経済・産業・金融・政治・法律・医療・健康・科学・技術・教育・文化など、 ほとんど全ての分野に波及」するものとされている。医療画像データベースや歴史情報アーカイヴまで射程にいれているのは特徴的だ。これまでの研究の蓄積、いわゆる学問的コンテンツのデジタル化までを含めたデザインがなされているのは他とは大きく異なり、長い目でみて一番総合的。



 着実なのは早稲田大学。総合力で期待できそうなのは慶應義塾大学宝塚造形芸術大学大手前大学のようなコース新設、京都精華大学のようなテキストを利用した公開講座型はこれからも増えていくと思うが、学生や人を集めることが目的になってしまっている面も否めない。東京芸術大学は「コンテンツ」と言い切らないところに姿勢が現れていて、「プロデューサー」ではなく「総合的なアーティスト」養成だろう。東京大学は「履修生」というのが魅力的なのかどうかなんともいえないところだが、修了後の選択肢は沢山あってほしいと思う。デジタル・ハリウッドは、かの「スキージャンプ」に続く者を見つけるのが目標の一つになっている。いっそのこと「独自のメディア」を持ってみればどうかとも思うが。
 いわゆる「コンテンツ」として目立つのは映画・アニメ・マンガ。その周辺領域にはデザイン・美術・舞台・音楽・広告・放送・新聞・出版などもあり、今後さらに再編が考えられる(経済産業省は「メディア・コンテンツ」と呼んでいる…)。情報メディア学科系に多いmeta media studiesとしての「メディア論」は、文化や産業の振興色が強いコンテンツ学科系にはまだ多くみられない。studiesじゃなくてもいいと主張するところがあるなかで、「秋葉系」的な文化論にするのでもなく、さらには記号論的な内容の深読みに回収されるのでもないところで、今でいうところの「コンテンツ」をcritical studiesとして対象化することが急がれるだろう。たとえば文化社会学における映画研究やマンガ研究にとっては、有機的な接続が可能になるかもしれないチャンスのはずだ。「コンテンツ」をブームとして終わらせないで考えていくためにも、また過剰な「社会学」化を回避するためにも。