遠くを見ながら君の話を聞きたい場所

oxyfunk2004-06-04

 都心の方には田舎者と呼ばれ、上京した方には東京者と呼ばれる僕のような<郊外者>には、回帰できる原風景はビル群や森にはない。そびえ立つ鉄塔線とか、ゴルフ場とか、団地とかそんなものである。そんな僕にとって、ダイエーは“世界”だった。
 買い物が好きだったんじゃない。エスカレータを逆走することはなぜか下半身を興奮させたし、学校オルガンで覚えた「ドラクエ」を意味もなく楽器売り場で弾いたりもした。それだけで気持ちよかったのだから。でも、カツアゲが怖いので、トイレは我慢したし、お金は靴下のなかに隠していた。その時はそれなりに鬼から逃げていたと思うのだが、パンパンに腫れた足下は“サイン”以外の何者でもない(笑)。ま、そんなスリリングな経験こそ、ささやかな大型店舗の記憶である。
 かつて、デパートの構造を紹介した本があった。「なんで地下には生鮮食品があって、トイレはここにあって、化粧品は一階なのか…」の類である。消費行動を「科学」的に説明すること。それを書籍化=商品化すること自体、消費行動の「科学」物語の一部のような気があるのであるが、『なぜ人はショッピングモールが大好きなのか:ショッピングの科学ふたたび』(パコ・アンダービル著、鈴木主税訳、早川書房、2004年)はついつい手に取ってしまった。なんだかんだいっても好きだから。
 マーケッターが書いた本書はいわゆる“ビジネス書”的語りに溢れている。「お客の半分以上が買い物とは関係ない → 長い時間いるわりには使う金額が少ない → 警戒すべきだ」や「郊外の少女達は都市を渇望している → 悲しいことにわれわれはその希望のかわりにショッピングモールを与えている → だからショッピングモールは彼女たちが社会をつくって楽しめるようなものにならなくてはならない」などなど。取り上げられている事象は面白いのに、目的が“あれ”だとものすごい勢いで書かれてしまいます。
 そんな消費行動の「科学」物語をすり抜けている人にお勧めなのが『屋上アイランド』(きんとうん出版、2004年)。「25歳を越えた人には、この世の地獄」といってしまうパコ・アンダービルが、目をつぶっているとしか思えない時空間はこの本の中にしっかり刻まれている。平日の昼間の誰もいないベンチがいい。そこでなんとなくおしゃべりしたい。大型店舗の屋上はふとすると子供時代の記憶として語られたりするけれど、“ほんとにそうなのかい?”と思うし、いまでもついつい寄りたくなる“どーでもよさ”のリアリティに僕は一票です。あ、僕だけですか?そんな暇なのは?
 
※参考
屋上遊園地ガイド
http://www.asobi-map.com/yuuenchi.htm
・屋上の二人
http://www.interq.or.jp/monkey/okujo/index_okujosyoukai.html